債権回収
債権回収について
会社・事業経営において、売掛金や貸付金などの債権が発生するのは常ですが、これらの支払が、本来なされるべき時期にない場合、対応を先送りしてしまうと、その金額の規模、 タイミングなどによっては、自社の経営を揺るがす事態にまで発展してしまいかねません。
時間が経過すればするほど、相手方の経営状況は刻一刻と悪化していき、その資産も迅速に行動した他の債権者に押さえられてしまいますので、回収はよりいっそう困難になっていきます。
したがって、債権回収にあたっては、「迅速に行動」すること。これがひとつの重要なポイントになります。
しかし、ただ迅速に行動すればよいというわけではありません。
例えば、全く見当違いの差押で空振りに終わってしまう、交渉で解決できるケースなのに、相手方の特性を読み違えて、強硬な法的手段を選択した結果、費用がかかった割にわずかな回収しか得られなかったなど、その選択を誤ると、結局、時間や費用に見合った債権の回収ができないのです。
いかなる行動をするか、すなわち、最大限に債権を確保・回収するために「最も効果的な手段を選択」した上で、行動しなければなりません。これが債権回収における、もうひとつの重要なポイントです。
当事務所では、豊富な経験と実績に基づき、相手方の特性や資産の状況など、様々な情報を分析した上で、最も効果的な手段を選択し、迅速に行動することを実践しています。
私たちが、未収によるダメージを最小限化し、貴社の安定経営をサポートします。
債権回収のために準備すること
債権の存在を証明する資料の収集
相手方(債務者)が債権の存在自体を争ってきた場合には、債権が存在し、相手方に対して請求する権利を有していることを証拠により明らかにしなければなりません。
したがって、債権の存在を証明するに足りる資料が揃っていることが、まずは必要になります。
この点、契約書を交わしていなかったり、借用書を差し入れてもらっていないなど、債権の存在を証明するために必要な書類が不足するような場合には、債務承認書を差し入れてもらったり、債務者との交渉内容を録音することによって、事後的に収集することも考えられます。
また、直接的に債権の存在を証明する資料がない場合であっても、他の間接的な資料からの推測や当事者の言動、記憶によって、債権の存在を証明できるケースがありますので、資料が不十分である、あるいは存在しないからといって、あきらめずにまずはご相談ください。
○債権の存在を証明する資料の一例
【貸付金の場合】
借用書、金銭消費貸借契約書、約束手形、小切手、領収証、受領証、預金通帳など。
【売掛金、請負代金の場合】
売買契約書、請負契約書、注文書(発注書)、納品書、請求書、発注請書、受領書、引渡済証、約束手形、小切手など。
【賃料債権の回収の場合】
賃貸借契約書、借地契約書、駐車場契約書など。
相手方(債務者)の支払能力・資産の調査
債務者に対する債権の存在を証明できたとしても、債務者に支払能力も差押可能な資産(売掛金、預貯金、不動産など)も全くないとなると、債権の回収可能性は極めて低くなるため、債務者の支払能力や資産状況についての調査、判断も必要です。
債務者の資産状況については対外的に公開されているわけではありませんので、時には地道に調査するしかないのですが、以下のような資産に目星をつけて調査することが一般的には有効です。
○調査に値する債務者の資産の一例
【債務者が事業者の場合】
取引のある銀行などの金融機関、生命保険契約、得意先(債務者が売掛金などの債権を有している取引先)、事業用資産(不動産、車両、什器備品等)など。
【債務者が給与所得者の場合】
勤務先、預金を有する銀行などの金融機関、自宅不動産など。
債権回収の具体的な方法
請求、交渉
債権回収についてご依頼をいただきましたら、相手方が支払のために必要な財産を隠したり、処分するおそれがあるなど、緊急に財産を保全(確保)する必要があるような場合を除いて、まずは法的手続をとる前に、通常の請求・督促を行うことから始めます。
通常の請求・督促といっても、「弁護士からの」請求・督促であることによって、「当社は債権回収について強い態度で臨みますよ」ということを明確にするとともに、「最悪の場合、法的手続もありうる」という認識を相手方に持たせることができますので、これだけでも相当程度のプレッシャーを与えることができます(逆に、強硬な手段に訴えることにより、相手方の態度がかえって硬化してしまうことが想定されるような場合には、弁護士名を出さずに、助言や書面作成などにより、債権回収を支援していきます)。
また、弁護士からの請求・督促の結果、相手方が実際の支払に至らなくとも、支払の猶予や分割支払の希望を申し入れてくるなど何らかの具体的な回答を得られることが多いため、これを糸口に、専門家である弁護士が、貴社の債権を最大限回収するために実効的な交渉を行っていきます。
債権の保全—仮差押
○債権の保全とは
債権保全の措置は、民事保全と呼ばれる手続の一種で、相手方(債務者)の財産が、実際に強制執行をするまでの間に処分されたり隠されたりしてしまわないようにするために、債権者側からの一方的な申立をもって、取り急ぎ債務者の財産の現状を維持・確保しておく予防的・暫定的な手続で、仮差押や仮処分がこれにあたります。
このような債権の保全手続が債権者に認められているのは、以下のような理由によります。
債務者の財産に対して実際に強制執行をするためには、裁判所の確定判決など債務名義というものが必要となります。
この債務名義を予め取得していた場合には、直ちに強制執行に着手できるため大して問題になりませんが、債務名義を取得していない場合、債務名義を取得するための手続から始めなければならず、強制執行に至るまでかなりの時間がかかってしまうため、この間に債務者が自己の財産を処分したり隠したりしてしまうと、ようやく強制執行にたどりついても空振りに終わってしまい、回収できたはずの債権が回収できないという事態に陥ってしまいます。
そこで、このような事態を回避するために、予め債務者の財産を保全することが認められているのです。
○仮差押—その手続と威力
仮差押とは、金銭債権についての強制執行を保全するために債務者の財産を仮に差し押さえて、債務者による財産処分に一定の制約を加える手続で、銀行口座などの預金や不動産を対象とした仮差押が典型例として挙げられます。
仮差押をするためには、裁判所に申立をして、仮差押命令を発令してもらう必要がありますが、この際、以下の要件が求められます。
①被保全権利が存在すること(債権者に本当に債権があるといえるか)。
②債権保全の必要性があること(仮差押をする対象の財産を保全しなければ、将来、強制執行をすることができなくなってしまうおそれがあるといえるか)。
これらの判断は、相手方に秘密のまま、裁判所において書面審理で迅速に行われます。裁判所において、①、②いずれの要件も充たしていると判断されれば、概ね、債権額の2~3割程度の金額の担保※を立てることによって、仮差押命令が発令されます。
※ここでいう担保とは、仮差押をするにあたっての保証金のようなもので、仮差押後の訴訟において債権が存在しないことが明らかになるなどして、仮差押の結果、相手方に不当な損害を与えることとなった場合の損害賠償に備える事前担保として要求されるものです。
債権回収の手続が終了し、相手方に損害を与えることがなければ(正当な仮差押であれば)取り戻すことができます。
なお、担保金は、債権者において、仮差押実行時に用意しなければなりません。
仮差押命令が発令され、執行されると、相手方債務者は、その財産の処分に大きな制約を加えられます。
例えば、預金債権の場合には、債務者はその口座から預金を引き出すことができなくなりますし、不動産の場合には、仮差押の登記が付されますので、仮に債務者が不動産を第三者に売却するなどし、強制執行時には所有者が債務者でなくなっていたとしても、当然にその不動産に対して強制執行をかけることができます。
また、売掛金債権の場合には、第三債務者(債務者の売掛先)は、仮差押後に相手方債務者に支払をしたとしても、仮差押をした債権者に対して、支払済みであるとは主張できませんので、その支払は留保されるのが通常です。
加えて、売掛金が押さえられるというのは、取引先に対する信用問題となりますので、債務者にとっては非常に大きなダメージとなります。
ただし、売掛金については、預貯金や不動産と異なり、本質的に短期間で決済されてなくなってしまうものであること、継続的な取引ではなく一回性の取引であるケースが多いことなどから、手続の迅速性がより強く要請されることにご注意ください。
仮差押はあくまで保全手続であり、実際に債権を回収するためには、訴訟を提起して確定判決を得るなど債務名義の取得が必要となりますが、上述のとおり、仮差押は極めて威力の高い手続であることから、仮差押を行っただけで債務者が任意の支払に応じてくるケースも少なくありません。
よくあるご質問(債権回収Q&A)
- Q
- 相手方の住所や行方がわからない場合は、債権回収をあきらめるしかないのでしょうか?
- A
-
相手方の現在の連絡先がわからない場合であっても、弁護士は、職務上、依頼を受けた事件の処理に必要な場合、住民票や戸籍の附票などを取り寄せることが認められていますので、これらを取寄せることによって、住所に異動がないかを調査することができますし、住民票等から判明しなかったとしても、携帯電話の番号や携帯電話のメールアドレスなどがわかっていれば、弁護士会照会制度(弁護士法23条の2に基づく照会)によって、携帯電話会社に照会し、携帯電話の契約者の氏名や住所を調査することも可能ですので、あきらめずにまずはご相談ください。
- Q
- 給料を差し押さえたら、相手方の給料は全額回収に充てることができるのでしょうか?
- A
-
給料の差押の場合、その全額を差し押さえることができるわけではありません。
具体的な給料の差押が可能な範囲は以下のとおりです。まず、給与については、基本給と諸手当(但し通勤手当を除く)から、所得税、住民税及び社会保険料などの法定控除額を控除した残額の4分の1。
ただし、上記法定控除後の残額が月額44万円を超えるときは、その残額から33万円を控除した金額。次に賞与については、各期の賞与から、給与の場合と同様の法定控除額を差し引いた残額の4分の1。
ただし、上記法定控除後の残額が月額44万円を超えるときは、その残額から33万円を控除した金額。
(ただし、夫婦間の婚姻費用(生活費)、子供に対する養育費、親族間の扶養などの義務に基づく定期的な支払を求める権利による給料の差押範囲は、基準が異なり、差押えの禁止の範囲は、給与の2分の1と少なくなります。)【例1】
基本給:25万円
通勤手当:1万5000円
住宅手当:2万円
所得税・社会保険料等法定控除額合計:7万円
財形貯蓄控除:1万円
→通勤手当を除く基本給+諸手当:25万円+2万円=27万円…①
法定控除額=7万円(財形貯蓄は控除対象外)…②
①–②=20万円…③
法定控除後の残額が44万円を超えないので、差押可能額は、③の1/4である5万円となります。【例2】
基本給:50万円
役職手当:15万円
通勤手当:1万円
所得税・社会保険料等法定控除額合計:15万円
→通勤手当を除く基本給+諸手当:50万円+15万円=65万円…①
法定控除額=15万円…②
①–②=50万円…③
法定控除後の残額が44万円を超えるので、差押可能額は、③から33万円を控除した17万円となります。
- Q
- 差押をしたのですが、後から他の債権者も差押をしてきました。先に差し押さえた私が優先的に回収できるのでしょうか?
- A
-
同一の目的債権(金銭債権)について、差押が競合をした場合、基本的には債権額に応じて按分して配当されますので、他の債権者よりも先に差し押さえたからといって、常に優先的に回収が可能になるわけではありません(例えば、15万円の預金に対して、100万円の債権をもつ債権者Aと50万円の債権をもつ債権者Bがそれぞれ差押をした場合、債権額に応じて2:1で配分されますので、債権者Aが回収できるのは10万円、債権者Bは5万円となります)。
差押の競合については、公租公課(税金や社会保険料)の滞納処分と競合した場合には、別途特別法による定めがあるなど、ケースごとに複雑なルールが定められていますので、詳しくはご相談いただく方がよいでしょう。
- Q
- 差押をした債権が第三者に譲渡されていました。私は回収できないのでしょうか?
- A
-
このような場合、差押債権の支払義務者である第三債務者に対する手続の先後によって決せられます。
すなわち、裁判所からの債権の差押決定の書類が第三債務者に対して送達された時期と、その債権についての債権譲渡通知が第三債務者に対して到達した時期のいずれか早い方が優先します。したがって、差押決定の書類が第三債務者に対して送達された時期の方が、債権譲渡通知が第三債務者に対してなされた時期よりも早ければ、差押が優先され、回収することができます。
- Q
- 預金を差し押さえたのですが、債務者に預金先の銀行に対する借金がある場合、この預金は相殺されてしまって、私は回収できないのでしょうか?
- A
-
銀行などの金融機関の債務者に対する債権の発生時期が、預金債権に対する差押決定の書類が第三債務者である金融機関に送達された時期よりも早い場合には、相殺が優先します。
通常、金融機関から債務者への貸付が先行してなされていますので、このような場合、差押債権者は、金融機関が相殺をした後、なお預金債権が残っていた場合に限って、残っている部分について回収ができるに過ぎません。